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2009年9月11日 (金)

風と陽光(ひかり)のエリア~6~

6、

食卓につくと、妻が
「お疲れ様」と声をかけてきた。
私のコップにビールを注ぎながら、
「どうでした?」と尋ねる。
「あぁ・・・」
妻の顔をまともに見られない。
「話は、できたんでしょう?」
「あぁ・・・」

突然、妻が席を立って、台所に向かった。
怒らせてしまった。とは思うが、うまい言葉が見つからない。

「あのな・・・」
「で、結局『ミイラ取りがミイラ』ですか?」
背中を向けたまま、妻が言った。
「えっ・・・?」
「また、オートバイに乗るんですか?」
「また、って、おまえ・・・?」
妻と知り合ったのは、今の会社に入社してからだ。
オートバイ関係のものは引越しのときにすべて処分されていた。
私たちの間でオートバイが話題に上ったことなど、今の今までないはずだが・・・
「知ってますよ。学生時代に乗っていたことも、大きな事故をしたことも・・・
 結婚してすぐに、お母さんから聞きました。」
「お袋から・・・?」
「お母さん、言ってましたよ。
 あの子があんなに好きだったオートバイをずっと忘れていられるわけがない。
 いつか、きっと、また、乗りたいと言い出すに決まっている。
 だから、そのときは、「反対」するか、「賛成」するか、あなたが決めなさい。って」
「お袋がそんなことを・・・、で、乗ると言ったら、反対するのか?」
「反対しよう、と思ってました。ずっと・・・」
「ずっと・・・?」
「えぇ、ずっと・・・、あなたがオートバイを悲しそうな、懐かしそうな目で見ているのを
 いつ、『オートバイに乗りたい』と言い出すか、ビクビクしながら・・・
 でもね。今は・・・、あの写真を見てからは・・・、それもいいかなって
 あの写真のあなたのあんな顔、見たことなかったから・・・」
妻もあの写真を見たんだ。すると・・・
「おまえ、こうなることがわかっていたのか?」
「えぇ、たぶん乗りたいというだろうと思ってました。」
「いいのか?また、事故でも起こしたら・・・」
「いいじゃないですか、事故を起こしたり、死んでしまったら、困りますけど・・・
 会社に入って20年、一緒になって18年、あの子が生まれて17年、
 あなたは一生懸命働いて、一生懸命私たちを守ってくれました。
 もし、あなたに何かあったら、そのときは・・・
 今度は、私たちがあなたを守ります。」
「おまえ・・・、ありがとう」
「ただし、ひとつだけお願いがあります。」
「え?」
「私のヘルメットは、あなたとおそろいの赤にしてください。」

「・・・了解」
妻は、小さく舌を出して、肩をすくめた。
久しぶりに見る、私が一番好きな、彼女の仕草だ。

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